大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和47年(行ウ)145号 判決 1979年4月27日

原告 麗峰商事株式会社

被告 中京税務署長

代理人 上原健嗣 森野満夫 山田一雄 ほか三名

主文

原告の請求のうち、被告が原告に対し昭和四五年一一月二八日付でなした原告の昭和四二年一〇月一日から同四三年九月三〇日までの事業年度の法人税更正処分の一部取消を求める部分及び同四〇年一〇月一日から同四一年九月三〇日までの事業年度の法人税更正処分の一部取消を求める部分(予備的請求)をいずれも却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  請求原因1(原告会社の営業)、同2(本件青色申告承認取消処分の存在)、同4(本件課税処分の存在及び課税の経緯)については当事者間に争いがない。

二  被告の本案前の抗弁について

原告は、本件係争事業年度の所得金額について、昭和四〇事業年度分三、五六七、八九二円、同四二事業年度分五、〇二七、一二一円と主張し、右両事業年度分に対する本件更正処分について右主張額を超える部分の取消し(但し昭和四〇事業年度については予備的に)を求めるが、右原告主張額は、本件更正処分における被告認定の所得金額(昭和四〇事業年度分三、〇四二、六一二円、同四二事業年度分五、〇〇八、七四一円)よりも高額であり、これは損金に算入されるべき未納事業税の額に基因するものであることは、双方の主張から明らかである(別表一及び二参照)。

ところで、法人事業税(本件においては中間申告納付分が無いからこれを除きいわゆる未納事業税)は、法人の所得計算上損金に算入すべきであるが、その課税標準は各事業年度の法人の所得(地方税法七二条の一二)であるから、法人の所得計算の変動があれば未納事業税の変動を生じ、これがまた所得計算に影響を及ぼすという関係にあり、かつ未納事業税の損金計上は当該事業年度に限るべき実質的理由はなく、翌事業年度において損金として計上することも許されると解される。

してみると、本件のように連続した各事業年度における法人の所得金額について争いのある場合においては、ある事業年度の直前の事業年度の所得計算の変動がこれに続く事業年度の未納事業税額の変動を導き、これが当該事業年度の所得計算に影響を及ぼすこととなる。本件においても、昭和四〇事業年度及び同四二事業年度の各所得金額につき、その各前年度の所得金額の認定如何によつては右両年度の所得金額が双方の主張額よりも更に少額となる可能性も無いとはいえない。

しかしながら、裁判所は当事者の申立てた事項及びその範囲についてのみしか判決できないのであり、仮に右のような計算の結果、右両年度分所得金額について原告が取消しを求める額(範囲)以下の額を認定しえたとしても、結局は原告が取消しを求める額(範囲)の限度においてのみ被告の本件更正処分の一部取消しを命じうるに止まるのである。

してみると、右両年度分について、被告が本件更正処分において認定した額よりも多額の所得金額を主張し、これを超える部分の取消しを求める原告の前記請求部分は、訴の利益の無いものというほかなく、却下を免れないところである。

三  本件青色申告承認取消処分について。

原告が昭和三九事業年度において麗峰会館の各賃借人から別表三の1記載の金員(但し、同表の浜口千鶴及び小山佳子の分を除く。)を受領したが、それを帳簿に記載せず所得計算の対象としなかつたこと、右金員のうち更新料が権利金の一種として益金に該当することについては争いがない。右受領金のうち契約金の性格については争いがあるものの、争いのない更新料の額のみをみても合計一、五二〇、〇〇〇円に及び同年度の確定申告額五、一三四、六五三円(争いない事実)の三割を超える金額であり、その金額の申告もれは法一二七条一項三号所定の「当該事業年度に係る帳簿書類に取引の一部を隠蔽して記載」した場合に該当するというべきであるから、本件青色申告承認取消処分は適法である。

原告は本件青色申告承認取消処分が原告の会計処理是正後になされており信義則に違反し違法と主張するが、右処分については除斥期間の定めはないうえ、<証拠略>に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和四三事業年度の決算において昭和四四年四月二三日までに収受した承諾料を収益として、右同日における受取契約金残高及び敷金を預り金勘定として帳簿上処理しているにすぎないことが認められ、昭和三九事業年度についての帳簿の記載自体を修正したものでないことは明らかであるから、原告の右主張も採用に由ないところである。

四  本件更正処分の適法性について。

1  更正処分と期間制限

原告は本件更正処分のうち昭和三九及び昭和四〇の各事業年度については三年の除斥期間経過後になされた違法があると主張するところ、国税の更正は、法定申告期限から三年を経過した日以後においてはできない(国税通則法七〇条一項一号)のが原則であるが、特定の場合には法定申告期限から五年を経過するまでは更正をなしうる(同法七〇条二項各号)のである。

原告が本件係争事業年度において麗峰会館の各賃借人から別表三の1ないし4記載の金員(但し、別表三の1、3記載の浜口千鶴、小山佳子についての分を除く。)を受領していたこと、右金員のうち益金に該当すること争いのない承諾料、更新料につき原告が帳簿に記載せず所得計算から除外していたことは当事者間に争いがなく右の事実が国税通則法七〇条二項四号に規定する偽りその他不正の行為により一部の税額を免れた行為に該当することは明らかであるから、昭和三九、四〇事業年度の法人税の法定申告期限である昭和四〇年一一月三〇日及び昭和四一年一一月三〇日から五年以内である昭和四五年一一月二八日になされた本件更正処分について、原告主張のような違法はない。

2  原告の所得金額

(一)  原告の本件係争事業年度の所得として、別表二1の基礎となる所得金額欄記載の所得があつたことについては当事者間に争いがない。

(二)  また別表二記載の加算額のうち、原告が本件係争事業年度において麗峰会館の各賃借人から別表三の1ないし4記載の金員(但し、同表の1、3記載の浜口千鶴、小山佳子についての分を除く。)を受領していたこと、原告は右受領金員を帳簿に記載せず、所得計算から除外していたこと及び右金員のうち承諾料、更新料についてはこれが益金に当ることは当事者間に争いない。

(三)  契約金の性格について

(1) 原告と麗峰会館の各室の賃借人間で作成された賃貸借契約証書、<証拠略>によると「賃貸借契約金を一金……円也と定め……右の契約金は事情の如何を問わず返戻されない」(第一四条)と明記されているほか、賃借人の債務担保の目的で敷金(第一六条)、賃借人の連帯保証人(第一七条)の定めがあり、更に明渡時における賃借人の費用による原状回復義務(第八条)、賃貸物件毀損滅失時における賃借人の修補、損害賠償義務(第九条)をも定めている。

右契約証書の内容からみると、本件契約金なるものは、賃借人の債務を担保すべき預り金或は保証金的な性質のものでなく、ことに賃貸人において返還義務がない旨定めていることからして、通常の権利金と同種のものというべきである。弁論の全趣旨から認められるように、麗峰会館は貸室が二〇前後あり、これをバー等飲食店営業用店舗に賃貸するものであるから、その賃借権には場所的、営業的な利益も当然含まれているということができ、かつ賃借権の譲渡性も否定されていないことからみても、右のように解することに不合理はない。

(2) 証人奥野駒雄は、麗峰会館の各室の賃借人との間において右契約書と別に口頭でもつて解約時に本件契約金のうち八割を賃借人に返還する約束があつたこと、右契約書第一四条の文言は、契約金返還債権に対する第三者の差押防止等を目的とする虚偽仮装のものであるとの趣旨の供述をなし、証人大村サダ子(賃借人の一人)も右奥野証人の供述趣旨に添う供述をし、<証拠略>にも右同旨の供述記載がある。しかしながら、奥野証人のいう前記契約書第一四条の文言作成の目的なるものも必ずしも合理的なものでないのみならず、原告が賃借人に対して本件契約金を現実に返還したと認められる証拠はない。<証拠略>によつても、原告が返還したと主張している分(別表五)は、いずれも昭和四六年六月の麗峰会館焼失前の賃借人のうち、新築された同会館に入居した者について、新会館の室の賃貸借契約金の一部に前の契約金を流用したに止まるものであり、形式的には焼失前における契約金が返還された如く見えるものの、実質的には返還されていないのであり、また<証拠略>によつても、右会館焼失前の賃借人で新築された会館に入居しなかつたものには、右契約金は名実ともにいまだ返還していないことが認められる。もつとも、<証拠略>には、焼失前の賃借人であつた浜口千鶴に対しては契約金が返還されたかの如き記載、供述があるけれども、<証拠略>や弁論の全趣旨からして、原告は本件更正処分に対して当初から本件契約金が預り金であると主張して争つていると認められるのに、<証拠略>は、本件における三一回に及ぶ準備手続を経た後の第三回口頭弁論期日(昭和五三年一〇月二〇日)において初めて提出されたものであり、右口頭弁論期日以前においては原告は浜口千鶴に対する契約金返還の事実を何ら主張していなかつたことが記録により明らかであることからして、<証拠略>が真正に成立したものとは信用し難く、右各証拠をもつて浜口千鶴に対する契約金返還の事実を認めることはできない。

(3) その他、本件契約金が、前記契約証書の記載内容に反して原告主張のような預り金であると認めるべき証拠はなく、かえつて<証拠略>の事実関係を合せ考えると、本件契約金は賃貸借契約時に各賃借人から原告に支払われる権利金的性格を有するもので、原告において返還義務の無いものと認められる。

したがつて、本件契約金は、これを収受した事業年度の収益とみるのが相当である。

(四)  次に加算金額のうち争いのある金額について順次判断する。

(1) 浜口千鶴に関する金員

別表三の1記載の浜口千鶴の契約金額が二二〇万円であり、支払済金額が一四〇万円であることについては当事者間に争いがないところである。このような賃貸借契約の権利金は、契約が成立して貸室の引渡しが行われた時に権利が確定するものであるから、所得計算上はその支払いが一部猶予され未収部分があつたとしても、確定した全額についてその時における収益として計上するのが相当であり、未収部分が免除されたような場合においては、その時における損金として計上すれば足りるわけであり、<証拠略>によれば、残額一四〇万円については本件事業年度において免除したことはなく単に支払いが猶予されていたにすぎないものと認められるから右契約金二、二〇〇、〇〇〇円をその賃貸借契約締結日である昭和四〇年三月二七日の属する昭和三九事業年度の所得として計算するのが相当である。

別表三の3記載の浜口千鶴の更新料については、<証拠略>によれば、昭和四二年三月二五日付保証小切手により浜口千鶴が四四万円の更新料を原告に支払つていることが認められ、これに反する証拠はない。

(2) 小山佳子に関する金員(別表三の1、3参照)

<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、原告は麗峰会館の賃借人から原則として契約金の二割の更新料を収受しており、小山佳子は、当初一階九号室(屋号「美代」)を賃借して契約金一〇〇万円のうち七二万円を支払つた後休業していたが、昭和三八年七月頃から二階一九号室(屋号「炎」)を賃借して営業を再開し、「炎」の賃貸借について前記「美代」の契約金を充当したこと、その後昭和四四年一二月二〇日に「炎」の賃貸借につき契約金を五〇万円とする新契約をなし、この際それ以前の未払契約金、更新料の清算、一部免除がなされたが、それまでは特別に更新料等の支払免除はなかつたことが認められる。

そうすると、小山佳子に関しては、他に反証の無い限り少くとも「炎」の賃貸借をなした昭和三八年七月以降、昭和四〇年七月及び同四二年七月に契約を更新し、この際契約金七二万円の二割相当の一四四、〇〇〇円を支払つたか或は原告においてこれを受取るべき権利が確定したものと認めるのが相当であるから、昭和四〇及び同四二各事業年度において、小山佳子からそれぞれ更新料一四四、〇〇〇円の収益があつたとする被告の主張は正当である。

(五)  被告主張の減算額については、このうち支払費用の額は当事者間に争いない。

そして、以上の「基礎となる所得金額」から、加算額、減算額を加減した各事業年度の金額について、法定の税率を適用(別表四被告主張欄参照)すれば、本件係争事業年度における原告の未納事業税額は、別表二4の被告欄記載のとおりとなる。

(六)  右に認定したところによれば原告の本件係争年度における所得金額は別表二の被告欄記載の額となるから、右額の範囲内における本件更正処分はいずれの事業年度についても正当であり、これを取消しを求める原告の請求は理由がない。

五  (本件賦課決定処分について)

右三、四により認定したところによれば、原告は本件係争事業年度において別表二の2加算額欄の被告主張額については、この金額を会計帳簿に記載せずに確定申告していたもので、これは国税通則法六八条一項所定の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠蔽したものというべきであるから、同条同項に基づく重加算税を課せられるのもやむをえないところである。なお、原告は右金額については原告前代表者二宮判述の提起した別件の所得税更正処分取消請求訴訟において明確となつていると主張するが、仮に右原告主張の事実があつたとしても、原告においてその所得の一部を隠蔽して確定申告をなしたことに変りはないわけであるから、原告の右主張は採用に由ないところである。

したがつて、本件賦課決定処分についても、原告主張のような違法はなく、これが取消しを求める原告の請求も理由がないものというべきである。

六  以上説示したとおりであるから、原告の本訴請求のうち昭和四二事業年度分の更正処分の取消しを求める部分及び同四〇事業年度分の更正処分の一部取消しを求める予備的請求をいずれも却下し、その余の請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 野崎薫子 岡原剛)

別表一ないし五 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例